今、多くの都市で保育園が足りないため、「保活(保育園への入園活動)」という言葉が広がり、大量の待機児童が深刻な問題となっています。福岡市も例外ではなく、年々未入所児童(待機児童)の数が増えているのが実態です。吉田市長は4年前「福岡市を日本一子育てしやすいまちに」との公約をかかげ、子育て支援を市政の大きな柱として位置付けました。しかし、保育所整備は公立保育所を民営化することだけ着々とすすめましたが、待機児童解消は社会情勢と保育ニーズにまったく追いついていない状況です。
福岡市は1960年代後半から80年代にかけて第2次ベビーブームの保育需要に対応するため、集中的に保育所の整備を行ってきました。しかしその後、就学前児童の減少もあり、1988年から保育所の新設は行っていません。地域的に増加する保育需要に対しては基本的に増築や既設内の定員増で対応してきました。
しかし1997年以降第2次ベビーブーム世代が出産・子育て期に入ったことや女性の社会進出の増加などにより保育所への入所申込が急増します。特に市街化の進行で人口が増えた地域においては待機児童が多く発生してきたため、福岡市は2002年に市児童福祉審議会に「今後の保育所行政のあり方について」諮問します。これに対して同審議会は「入所申込の急増から保育所整備は緊急な課題であり、整備計画を作成し迅速に行う必要がある」と答申しました。これを受けて福岡市は保育所整備計画を策定、2003年度以降2009年度までに保育所数を18か所、定員を1530人増加させました。現在、福岡市内の認可保育園の数は、172ヶ園(うち公立15ヶ園)、定員数は23,755名となっています。
しかし、保育園入所申込数が増えるにつれ、未入所児童(待機児童)数は年々増え続け04年度には未入所児633名であったのが、09年度には978名と過去最高の数となりました(図表3-3参照)。
未入所児の内訳は625名が家庭保育(求職中等)であり、あとは一時保育の利用や親類等に預けるなどですが、一番の受け皿は認可外保育施設の利用(141名39.9%)となっています。認可外保育施設は福岡市内には142カ所あり、2,132人の市内の児童が利用しています。(2009年4月現在)
この状態が望ましくないことを福岡市当局は自ら「認可保育所を希望しながら、入所できずに認可外保育施設を利用する児童は認可保育所に入れることができた児童と比較して、保育の質や保育料負担の面等において公平性を欠く状況である」としています。認可外施設に対して2002年から届け出制が導入され、2005年からは認可外保育施設指導監督基準を満たす旨の証明書の交付制度が創設され、指導体制も改善されました。しかし認可外施設に対する支援事業としては、
①児童健康管理支援事業(嘱託医の設置、児童のぎょう虫検査、尿検査の助成)
②職員健康管理支援事業(職員の健康診断、検便費用の助成)
③保育従事者等研修事業(研修に参加した職員の代替雇用費の助成)
の助成しかなされていないのが実情です。本当に支援して欲しいのは保育費用の助成であり、認可外保育施設の早急な認可化であるはずです。とても少ない予算で子どもたちに厳しい保育環境を押しつけ、その上ほとんど補助金のない認可外の施設で不十分な保育を担わされているのが実態です。
市は2004年、2008年と「政策推進プラン」を策定し保育所整備を推進してきましたが、定員増は遅々として進まず、増え続ける入所希望数に全く追いつかない状況がつづいています。
現実の状況はまさに「保育所に入れないので働けない。働けないので保育所に入れない」という悪循環が子育て世代の生活を直撃しているのです。
福岡市は昭和40年代~50年代(1960年代後半~1970年代)にかけて第2次ベビーブームの保育需要に対応するため、民間保育園に市有地を無償で貸し付ける手法で集中的に保育所の整備を行いました。
この手法は「福岡方式」と呼ばれ、保育所整備に大きな成果を上げ、他都市と比べても保育所整備率が高くなりました。その後全国的に就学前児童人口が減少し、保育需要が収束傾向にあったため、保育所整備は新設・新築では行われなくなります。 しかし、保育需要が増加傾向となった2002年度以降は新築整備について重大な変更がなされます。これまでのように、土地を社会福祉法人に無償貸与して保育所を設置するのではなく、民間事業者が保育所用地を確保することを基本としたからです。このため新設の保育所は2009年度までで、わずか10か園にとどまりました。
民間の社会福祉法人まかせのやり方では、基準に足りる保育所用地の確保が困難であり、保育所新設がすすまず、開設できても小規模定員にしかならないという状況です。
市は2010年3月に「新待機児童解消プラン」を出しましたが、その整備計画では、2013年度までの4カ年で2,200人分の定員増を見込んでいます。ところが新築による整備は東区の3地域、博多区の1地域、西区の1地域のみで、あとはこれまでと同様に増築・改築、分園、定員増での対応です。したがって、このやり方では、待機児解消の即効性をもった特効薬とはなりにくいと考えられます。
福岡市は1987年以降、保育園の新設を行わず、既存保育所の増築等による定員増で対応してきました。2002年以降は保育園の新設に対して福岡市が保育所用地の確保をせず社会福祉法人まかせにする一方で、増・改築や定員増のみで対応してきたため、保育園の規模はマンモス化してきました。 他政令指定都市の1保育園あたりの定員数の平均は104.6人となっていますが、福岡市では平均142.7人と飛びぬけて多い定員数が200を超える園は28園(16%)もあり、すし詰め状況です。市の幹部は「福岡市はこれまで市が広い土地を無償で貸与し保育所を整備してきた。また、増・改築、定員増で保育需要に対応できている。マンモス化が悪いというが最低基準を満たしているので、どこが悪いのかわからない」という発言をしました。
しかし、定員増となった園では子ども同士のトラブル(かみつき・けんか等)が増えた、一人ひとりの子どもに目が行き届かない、静かに本を読んでいる子どもの横は走り回る子どもがいる、給食が済んでいないうちから同じ部屋でお昼寝の準備を始めなければならないなど、保育現場では様々な問題が生じています。保育関係者は行き届いた保育を行うためには定員60名程度が最適であると考えています。定員増によるマンモス化の弊害はあまりにも大きくなっています。
他方で、保育士1人当たりの子どもの数が政令市の中で一番多い平均が7.0人であるのに対し、福岡市の保育士は1人で10.4人と、これも飛びぬけて多いのです。原因はこの大きな福岡市が保育士の配置を国の最低基準に合わせるだけで独自の配置はしていないことです。名古屋市では0歳2:1(国3:1)、1~2歳児4:1(国6:1)というように市独自で保育士の配置を厚くしています。このように他都市では保育士を国の基準以上に配置し、保育の質を高めているのです。(図表3-5参照)
福岡市は職員の処遇改善や研修・週休代替などのために、福岡市保育協会を通じて民間保育所に補助を行っています。しかし補助金は、1998年度の19億6千万円(指数100)をピークに年々削減し、09年度には12億7千万円(指数65)まで減少しました。このため保育園では正規(常勤)の職員配置が困難となり、非正規(常勤ではないパート職)での対応しかできない状況に追い込まれています。このことが保育士1人あたりの児童数を突出させる要因なのです。 同時に保育者の賃金水準も低く抑えられています。特に非正規の保育士は、年収が200万円前後しかないという、ワーキング・プアの状態です。このため、保育者の入れ替わりが激しく、保育の経験、習熟が積み上がっていかない原因になっています。
これらの指標は福岡市の保育が他都市と比べて保育の質の点で低くならざるを得ない状況を示しています。
吉田市長は、4年前「福岡市を子育て日本一に」を公約にかかげ、子育て支援を重点政策としてきたはずです。 特に、公立保育所の民営化問題は、市民の思いとは逆に、見直しは名ばかりで再開されました。2007年当時17か園だった公立保育所は現在では、15か園にまで減らされています。公立保育所の保育士は民間保育園の保育士と比較して平均勤続年数が長いため、経験と学習を積み重ねることにができ、専門性が高められています。また、公立だからこそ、様々な子どもを取り巻く社会状況の変化等に対してすぐに充実した対応が可能です。
福岡市は前述のように、民間活力を生かして短期間に保育園を整備してきた経緯もあり、他都市と比較しても公立保育所が極端に少なくなっています。政令指定都市の公立保育所の全体に占める割合の平均が38.4%と4割近くであるのに対し、福岡市は9.9%と1割にも満たない状況です。さらに公立保育所を民営化して最終的には7か園にするというのですから恐ろしい話です。 前述したとおり、公立保育所の保育士は継続性と専門性が高くなっています。この意味で公立保育所は民間保育園の基準となり、福岡市の保育の質を維持し、あるいは低下させないために重要な役割を担っています。
保育所への入所ができず、大量の待機児童の常態化は児童福祉法24条違反です。福岡市にはこの状況を速やかに解消し、子どもの保育を受ける権利を守る責務があります。
未入所児童に対して保育所整備が追いつかない状況であるからこそ、民間活力のみに頼るべきではありません。公立保育所をもっと活用し、速やかに待機児童を解消していくことが行政の任務だと考えます。特に公立保育所の性格を考えるならば、地域の子育てセンターとしての大きな役割があります。公立保育所の民営化をすすめるのではなく、今ある公立保育所を活かした子育て支援策が必要なのではないでしょうか。
公立保育所がない中央区・南区・城南区などに公立保育所をつくっていくことこそが大きな子育て支援策になります。
子どもと貧困というテーマについて考えた時、子どもを巡って3つの貧困があります。
まず子どもとその家族を巻き込む経済的貧困です。厚生労働省がはじめて公表した2007年の日本の相対的貧困率(平均的な所得の半分[228万円]以下の家庭で暮らす国民の割合)は15.7%、18歳未満の子どもの相対的貧困率は14.2%となっています。(2009年10月20日厚生労働省公表)
これはOECD平均の12.1%を上回っておりデンマーク2.4%の実に6倍以上になります。なかでもひとり親家庭の貧困率は57.9%にも及びOECD加盟国のなかでも最悪の数値です。
さらに、日本の貧困の特徴はOECD加盟国で唯一、課税・所得移転後所得(税負担と社会保障などの受給の調整後)の貧困率があがっていることです。(2009年度版保育白書 中村強士)これは新自由主義政策によるセーフティーネットの弱体化を端的に現しています。
生活保護受給世帯は2009年8月で125万5257世帯にのぼり前月より1万597世帯、前年度より11万8266世帯も増え、国民生活の貧困化がますます深刻になっていることを示しています。
こうした経済的貧困は、子どもたちの成長や発達に深刻な影響を及ぼします。貧困は生活にゆとりをなくし、子どもの成長にとって大切なゆとりや豊かな体験を奪ってしまいます。このことは子どもの心の貧困を生みだし、世代間での連鎖を生みだしていきます。そうした子どもの状況を見た時、背景には日本という国の政治の貧困が見えています。
ここ数年、増え続ける保育所への入所を希望しながら入所できない子どもの存在。例年、10月頃になるとだんだん落ちついて、年度末の卒園児数に見合う入所児数になるのですが、いまは4月から6月には定員以上の入所数となります。その後毎日のように問い合わせの電話や見学の申し込みがあり、保育所ではその対応に追われています。
特に公立保育所は緊急時の入所や民間保育所の入所を優先させるという市の方針もあり、定員を割っていることが多かったのですが、ここ数年急激に保育所入所希望者が増えてきています。
このように待機児問題は、直接の窓口ではない保育現場にいてもひしひしと感じられます。
「夫が失業しそうだから自分も働きたい。でも保育所に入所できないと仕事を見つけられない」「育児休業中です、子どもを保育所に入れたいが見つからない、このままだと仕事をやめさせられます」これは先日、福岡県保育センターに寄せられた相談の電話です。両親ともに非正規、父親が失業して勤務時間を延長してないといけない母親、父親がダブルワーキングで子育てが母親一人になってしまう、等のひっ迫した生活実態が保育所でも見られるようになってきました。
以前は育児休暇を取ってからの保育所へ入所が主流でしたが、今はまず子どもが保育所に入所してから職場復帰することも多くなりましたし、片親家庭の親の年齢層は低年齢化しています。0歳児の入所定員数がほとんどの保育所が定員いっぱいの入所になっていて受け入れができないのに、受け入れざるを得ない状況です。そこには働かざるを得ない今の若い親の実態が垣間見えます。
ある民間の保育園では100所帯を超える保護者のうち両親ともに正規であるのがわずか7所帯だという報告もありました。 子どもを産んでも働き続けたいという女性の増加が保育所入所希望の増加となり、保育所不足に拍車がかかっています。しかし今の福岡市の対応策は、全く不十分と言わざるをえません。
今、子育てを見ていると子どもたちの両親や祖父母の段階で育児に関する知識や経験がすでに貧困になっています。子育てについて実践的知識を学ぶ場も少なく、また育児に関しての相談がしにくい状況が子育てを孤立化しているように思われます。この様な中で問題になるのが子どもの育ちの貧困です。
保育士の声でも、子どもたちの姿の変化が見えてきます。生活リズムが不規則で朝から不機嫌、気持ちが安定せずいつも友だちより大人を求めている子。子どもの言いなりになってしまい子どもときちんと向き合えない親、子どもを愛しているのに子どもの心に伝わらない等以前にはなかった親子の姿が目につきます。子どもを中心にした生活リズムではなく、親の都合に子どもが振り回され、子どもが気持ち良い生活が送りづらくなっています。以前には子どもたちに見られた、夢中になって遊び込んだり、自分の意見をどんどん保育士にぶつけてくる姿が少なくなる一方、テレビのヒーローになって戦いごっこする子、あそびが見つからずごろごろしている子が多くなっています。
幼稚園では経営維持のため、保護者へのサービスが先行し送迎バスで長時間かけて家の前まで迎えに行き、子どもがバスの中で往復2時間以上過ごすような状況も生まれています。教育であるはずの保育が「サービス」と呼ばれて、子どもより大人の都合が優先されてしまっているのです。その現実を前に、そういう子どもや保護者の思いに応えようと思い悩んでいる保育士は多くいます。
保育所経営のため園児獲得競争が激しくなり、子どもの保育に早期教育や英語、フラッシュカード、短歌、漢字教室等が持ち込まれてきました。保育園・幼稚園が小学校の予備校化していく傾向が民間依存の福岡県下では強まっています。
福岡の民間依存型の保育所づくりは、保育者の労働条件が公立と大きな格差を生み出しました。保育者の入れ替わりが民間とで激しく、保育者の労働者としての権利が認められていない状況です。このことが、保育の質が積みあがっていかない原因です。
今回の保育労働者の懇談会でわかった、保育現場で働く保育士の厳しい状況には驚かされました。福岡で大半を占める民間保育園の保育士の半分以上が非正規職員で時給750円~800円前後の日給制。休みが多い月には一人暮らしでも、生活するのが精一杯、保育の本を買ったり、研修会に行くこともままならない、来年働き続けられるか分からないとの不安の声が多くだされました。彼女たちはクラスを任され、正規職員と同じように働いています。
一方、正規職員でも公立保育所の半分以下の給与であり、子どもが好き、保育という仕事が好きだからこそ続けられますが、ほとんどの人が3年程度で、職場を離れています。公立保育所の民営化が進むとこの状況はさらに悪化していく可能性もあると心配する声が出されました。これは新自由主義の構造改革の結果規制緩和がすすみ保育士の配置が年々緩和され、全員が正規職員である必要がなくなったことが大きな原因です。県内では公立保育所でもそういった状況がみられます。現に福岡市の公立保育所でも年度途中での入所に対応する保育士や年次休暇や育児休暇への対応は短期雇用の臨時職員で対応しています。福祉職場の多くでワーキングプアーを生みだし、いつも人手不足状態です。保育士が定着しないために保育の継承ができません。何年も時給が上がらず、将来に不安を抱えながらの保育で、「子どもが好きだけで仕事はできない」と保育現場を離れる若い保育士が数多くいます。さらに、これまでの保育の歴史が培ってきた実践の継承が、とてもむずかしい時代です。今や保育業者が保育士の派遣業をやる時代になっているのです。
国や自治体にこの状況を改善する姿勢はまるでなく、反対に保育制度の改悪で、むしろそういった状況を加速させようとしているのです。
保育に従事する職員が、安心して働き、生き生きと楽しく日々の実践の向上をはかれないもとでは、子どもたちの成長・発達の保障そのものがむずかしいといえます。
これらの背景には、国が行ってきた保育への市場開放や子育てへの財政措置を怠ってきたことが原因です。保育所への予算は以前国が半分を担っていましたが、今は1/3になりその分地方と保護者への負担が増えてしまいました。
保育学会が日本の保育所の生活環境について欧米に比べて格段に劣悪であると批判し、抜本改善の提案をしているにもかかわらず、改善される気配はまるで感じられません。福岡市も独自に保育を思い切って改善しようとの姿勢も具体策も見られません。大切な子どもの育ちの場が、安上がりの大人の都合だけの場になっているように思えてなりません。自治体はもっと国に対して子育て支援の政策を拡充せよとの声を上げなければいけないし、独自性を発揮して子育て支援の施策うぃ充実すべきでしょう。
貧困によって奪われるもの、それは生存権(憲法25条)、教育を受ける権利(26条)、労働の権利(27条)であり、「生きること」、「学ぶこと」、「働くこと」を奪われることに他なりません。
「子どもの貧困」と「貧困の連鎖」を解決することは、憲法25条、26条、27条を保障していくことです。「学ぶこと」が保障されなければ「働くこと」が危うくなります。そして「生きること」すら脅かされていくのです。その結果、次の世代である子どもの「学び」が保障されず悪循環が続いていくのです。
社会としてこれらの権利を保障すると同時に、自らも生きること・学ぶこと・働くことを権利として自覚することがいま求められているといえるでしょう。
2010年7月29日付の西日本新聞で「児童虐待福岡市で急増」という記事が朝刊一面に大きく載りました。これによると児童虐待相談対応件数が2008年度と2009年度を比較すると153件増の495件となり前年の1.5倍になっています。
全国的に急増してきた児童虐待ですが、福岡市では2009年に虐待によって死亡した子どもが6人に達しました。度重なる報道と注意喚起の呼びかけで関心が高まり、通報数が増加したのではないかとみられています。福岡市では区役所の子育て支援課を強化し、相談窓口を広げたということも影響しています。
児童虐待防止対策としては、予防から早期発見、早期対応、保護・支援、社会的自立まで切れ目なく社会全体で取り組むことが重要です。
これからの子育て支援を考える場合、地域特性に合った地域ネットワークが重要であり、その中心となるのが公立保育所や公民館、区役所など行政組織の役割が大きいのではないでしょうか。
都市化や核家族化の進行に伴い、近隣関係が希薄化するとともに、子育てを支える地域社会の結びつきや子どもに対する目配りも弱体化しつつあります。
育児に関する情報が氾濫する中で正しい情報の選択が困難となるほか,情報手段の格差、非対称から情報を必要とする家庭に適時に必要な情報が伝わらないなどの状況が発生しています。また、乳幼児と触れ合う機会が少なく、子どもと接したことのない親が増えています。その結果、育児についての不安や悩みを抱く子育て家庭が増加し、孤立化する親たちが多くなっています。
育児不安や社会からの孤立化による親の問題は、その影響を受ける子どもの心の問題や子ども虐待を含む親子関係にまで影響します。
福岡市が2009年(平成21年)3月に作成した次世代育成支援に関するアンケートでも、子育て家庭の孤立が顕著です。
「子育てに関する意識と関わり」で、子育ての悩みで最も多くなっているのが「子どものしつけに関すること」(45.3%)です。また年齢が低くなるにつれて「子どもの身体的なこと」が、年齢が高くなるにつれて「子育ての仕方」の悩みの割合が高くなります。子育てに関して得たい情報は「子どもの遊び場や施設について」(58.6%)「子どものしつけや勉強について」(52.8%)が半数を超えます。情報の入手先としては「近所の人、地域の知人、友人」(56.9%)が最も多く、区役所などの行政機関を利用するまでにはいたっていません。
子どもプラザや子育て交流サロンの利用状況も0歳児については利用率が約3割で「今後利用したい」又は「利用回数を増やしたい」が約4割弱となっています。
これらのことは、情報の発信と宣伝を改善する必要があることを示しています。
地域でのつながり、関係からみると、近所づきあいについては、「会えばあいさつをする程度」(42.1%)の割合が最も高く、次いで「会えば世間話をする」(30.4%)、「ときどき家を訪問する」(21.7%)の順となっており、「毎日でもお互いの家を行き来する」(2.1%)は1割にも達していません。(図表3-9参照)
また、「子育てについて配偶者や親族以外で気軽に相談できる人は身近にいるか」という問いの中で、悩みなどの相談相手の有無について、「少しはいる」(54.3%)の割合が最も高く、次いで「たくさんいる」(30.4%)と、『いる』(上記2つの総和)と回答した人が84.7%と8割以上を占めているものの、一方で『いない』(「あまりいない」と 「まったくいない」の総和)と回答した人は13.6%と1割以上もいます。(図表3-10)
子どもの年齢別に見ると、大きな差はみられませんが、0歳児と1~2歳児の親で『いない』と回答した人が15%程度を占めています。
子育てサークルなど自主的な活動の参加の有無については、「現在参加しておらず、今後も参加するつもりはない」(42.2%)の割合が最も高く、次いで「現在は参加していないが、以前は参加していた」(24.0%)の順となっており、『参加していない』が8割を占めています。なお「現在参加している」(10.5%)は1割となっています。
子育ての不安感・負担別にみると、「不安や負担を感じる」では「現在参加しておらず、今後も参加するつもりはない」が他に比べて高く、半数近くを占めています。また「多少不安や負担を感じる」と「あまり不安や負担などは感じない」で「現在参加している」が1割以上となっています。(図表3-11参照)
子どもと一緒に近くの公園を利用しているかについては、近くの公園の利用の有無について「ときどき利用している」(48.7%)の割合が最も高く、次いで「よく利用している」(23.2%)となっており、『利用している』(上記2項目の総和)が7割程度を占めています。一方で『利用していない』(「あまり利用していない」と「利用していない」の総和)は24.2%と2割強を占めています。また「近くに公園がない」は3.4%の回答がみられます。(図表3-12参照)
このように、近所付き合いの頻度と子育ての相談相手の有無に強い相関がある事が窺えます。子育てサークルなど自主的な活動と近くに公園がある、ない、という回答の間にも相関があります。
子どもの健やかな成長は、家庭においては家族が互いに協力し、地域においては社会全体で子育て家庭を支えていくことが重要です。育児の孤立化をなくし、すべての子育て家庭を地域全体で支えていく取り組みが必要となっています。
福岡市は2010年4月に策定した「新福岡市子ども総合計画」において、子ども行政の全庁的な計画推進と全市レベルでの推進体制、地域レベルでの関係者のネットワーク化が重要だと述べています。福岡市は現在、地域における身近な相談体制の充実として区役所による子ども施策・子育て支援の総合的推進を重視しています。
各区役所に子育て支援課を置き、子ども施策を推進しています。推進方向は
①乳幼児等子育て家庭の孤立化、育児不安の軽減
②子育てしやすいまちづくりを2本の柱にしています。
それと虐待などのハイリスク家庭の発見と支援(虐待予防・対応)として相談業務の充実をはかっています。
さらに区役所の特性を生かし、より市民に身近な窓口として敷居が低く、予約なしで気軽に相談ができるように工夫しています。
他方でに区役所には総合性、つまり健康課・地域保健福祉課・保護課・市民課・地域支援課・地域振興課など縦割り行政の弊害を取り払い、横のネットワーク、連携がとれるという大きなメリットがあります。また部門連係として、保育所・生活保護・母子保健・精神保健・健診・家庭相談・民生委員との連携がすぐにとれるようにしており、区役所の総合性を生かすという優位性があります。
早良区役所では、区関係課のネットワークの強化を行い、保健福祉センター内での連携によって支援を要する児童養育世帯への早対応携を図っています。保護課との連携や個別家庭支援の連携、保健師との連携による赤ちゃん訪問や乳幼児健診での対応などを強化しています。
早良区役所はこれにとどまらず子ども施策を区行政の大きな柱と位置付け、保健福祉センターの各課・総務企画課・地域支援課で子ども施策充実プロジェクト会議を開き、縦割りの垣根を低くして迅速かつ丁寧な対応に取り組んでいます。このような区役所内の連携強化は、虐待などの予防や早期対応を可能にしています。
アンケート結果が示すように、「子育てについてどこに相談していいかわからない」という不安を解消させるうえでも、区役所の相談窓口は重要な位置にあります。
区役所の窓口がいかに垣根を低くしたとしてもなかなか窓口まで出向くということが難しい状況もあります。この意味から地域の連携、ネットワークをつくることが重要になります。地域の中で誰もが安心して、いつでも相談できるような体制が不可欠です。地域の中で自治会や民生委員、小学校や保育所などが連携することで、子育て家庭に対する相談や支援といったきめ細かい対応ができていきます。
早良区内の田村校区では、民生委員・保育園・小学校が連携して「いのちの連絡会」という組織をつくり、毎月地域の子どもたちのことについて話し合うようなことが行われています。区役所内だけではなく、地域との連携や保育所など行政の横の連携が大事です。
区役所子育て支援課に保育士が配置されてはいますが、各区1~2名程度で区全体へ行き届いた対応は難しいのが実情です。子育て支援の専門性を持った保育士を各区にもっと配置し、地域の中へ入り込み、きめ細やかな対応が求められます。そして、公立保育所を区役所の所管とし、区政の一環に組み込んで、地域の子育て支援のセンターとしての役割を持たせることも大きな課題です。このことを福岡市当局に強く求めたいと考えます。
アンケート結果が示しているように、子育てについて悩みはあっても、なかなか行政機関に相談ということが難しい状況の中で、区役所は敷居を低くして、いつでも相談できるような体制がつくりつつあります。しかし、もっときめ細かな対応、迅速な対応となると、地域のネットワークを生かしていかないと決して十分ではありません。
子育て家庭の孤立化をなくすためにも、地域で中に相談できるような体制をつくっていくことが求められます。区役所の子育て支援の強化と同時に地域の子どもの育ちを見守る体制の構築、保育所や小学校・自治会などが連携し、地域ぐるみでの子育て支援の強化を重ねて強調したいと思います。
福岡の保育・その成り立ちと歴史
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福岡県保育センター 吉冨利子
そもそも日本の保育制度が何を目的としているかを、はじめに確認したいと思います。憲法に基づいてつくられた「児童福祉法」は、国・自治体の責任において、すべての子どもたちの「健やかに育ち、生きる権利」を保障すること、すなわち「子どもの『基本的人権』を守る」ことを目的にしています。したがって、児童福祉法は子どもが保護者の就労や病気等で保育されない状況がある(=「保育に欠ける」)場合、国・自治体の責任で「『保育所』で保育する」ことを定めています。
さらに「国・自治体の責任」を具体的に、「①保育に欠ける子に対する保育実施の義務、②「最低基準」に基づく保育の実施、③保育実施における運営費の負担」と明記しています。これをもって日本の子どもたちは、全国どこの地域に住んでいても、保護者の貧富の差にかかわらず、最低基準以上の保育を受けることができることになっています。(ナショナルミニマムの保障)
福岡市においては、この「『保育』の実施責任」を、民間保育所に補助金を出し委任する形に重点を置いてすすめてきました(福岡方式)。この結果、政令指定都市で最も公立保育所が少なく、一園における入所児童の平均が政令市最多という詰め込み状況を子どもたちに強いてきました。そうであっても「最低基準」ぎりぎりの保育環境を保ってこられたのは、児童福祉法があったからにほかなりません。
しかしながら国は、子どもたちのためにこの保育制度を必ずしも豊かにしてきたわけではありません。子どもは、3歳になるまでは母親が家庭で養育すべきと、保育にかかる予算を削減してきました。ところが、少子化問題と、一方では女性の安価な労働力確保のため、「保育」が着目されるようになりました。保育所に入れない子どもを「待機児童」として、小泉構造改革を皮切りに「待機児0作戦」と称し、それまでとは一変し、保育ニーズに対応するべく一定の政策転換が起こりました。
とはいえ、保育所が足りない分をつくるのではなく、規制緩和で基準をゆるやかにすることで受け入れ枠をひろげました。それは、「児童福祉法」の主旨に基づき保育所をつくってこなかったための保育所不足が最大の原因だといえます。さらに長時間や休日仕事をする人も増えており、それにみあった保育が求められています。
また、一方では、専業主婦世帯にも子育て不安からの支援も求められ、保育所に対する要求は増大するばかりです。
旧自公政権に代わる民主党中心の新政権は、「地域主権」の考え方を急ピッチで進めようとしています。社会福祉等の政策は、地域の事情によって自治体が主体的にすすめるべきだとする、「地方分権改革推進計画」(2009年12月15日)が閣議決定されました。そして、これに基づき先の国会で、「地域主権改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案」として、41もの法律を一括改正法案として提起しました。しかし、成立を待たずに閉会となり、選挙後の新体制の国会に持ち越されています。
ここでは、児童福祉法については、保育所の最低基準などを廃止し、地方条例化することも盛り込まれています。そして、最低基準の地方条例化にあたっては、一応の「基準」はもうけていますが、全国どこでも貧富の差なく子どもに保育の保障をしなければならないという「国の責任」はなくなります。他の重要な法律もひとくくりに、十分な議論もなく、一方的に廃止、自治体まかせにすることは、国の安易すぎる責任放棄だと言わざるを得ません。
もともと現児童福祉法による「最低基準」は、自治体が独自にさらに豊かにふくらませる事こそがその本来の目的であり、これ以下にしてはならないことに「国が責任をもつ」というのが主旨です。財政状況が厳しい自治体が多い中で、保育の条件はさらに切り下げられることもまぬがれないといわざるをえません。こうした国の責任放棄の姿勢は許されるものではありませんが、一方では、自治体独自の考え方がいっそう求められる時代にはなってきます。「子どもの育ち」をこそ、最も大切にする街づくりが求められます。
保育所給食についても、3歳以上については外部搬入を容認し、2010年6月からこれがスタートしました。現在、福岡市においては、食育の観点から、給食は「自園方式」を大切にしたい、としていますが、「国の動向を見ながら」ともしている福岡市の姿勢が心配です。今後の動きを注視しなければなりません。
保育要求の高まりをとらえ、国は、その解決にむけて、足りなかった保育所をつくるのではなく、保育制度そのものを変えてしまうことを検討しています。もはや、保育は、国・自治体の責任としてではなく、社会全体で考えられるべきもの、さらには、一部の保育所利用者だけでなく、すべての子育て家庭に支援がされるべきという論立てで、「子ども・子育て新システム」としてすすめています。
これは、先の自公政権で提起された「新しい保育のしくみ」を継承させたもので、「幼保一体化」も合わせたしくみになっています。具体的な「基本制度案要綱」が6月25日、新システム検討会議で確認されました。さらに経済産業省の産業構造審議会産業競争力部会報告は「産業構造ビジョン2010―日本は何で稼ぎ、何で雇用していくのか」を6月3日に発表し、その中でも、子育てサービスの産業化(経営効率化、認可・認可外共通の事業環境の整備、幼保一体化等)により、この分野で「稼ぐ」ことを明確に打ち出しています。まさに「子どもをもうけの対象にする」というものです。
ここには、すべての子どもたちの「健やかな育ち」の権利に対し、国・自治体が責任をもつという考え方はありません。利用者が欲しいサービスを自由に選び、受けるサービスに対する対価を利用者自身が支払い、不公平感なく「(社会全体でつくる)公」が援助をするしくみをつくるというのです。結局、子どもの育ちは、親(保護者)の懐次第ということになります。
このしくみは、先につくられた介護保険法、障害者自立支援法をモデルにしていますが、いずれも、とても問題が大きい法律だとされ、これでそれぞれの課題がよくなったという評価は一切聞かれません(障害者自立支援法は、大きな運動の中で「廃案」が決まっています。ただしその実行の見通しはたっていません)。当事者の問題が一切解決されないという、すでに実証済みの制度のしくみを、保育でもつくろうと、「2011年1月の国会で決め、2013年度でスタートさせる」ということまで計画されています。
吉田現市長は4年前の市長選挙で「日本一子育てしやすい街」づくりを主張し、全市民的な課題であった「『公立保育所の民営化』を白紙にもどして見直す」ことを公約にあげて当選をはたしました。ところが、1年かけて実施した「検証」の結果、「保育内容は、公立も民間もなんら変わるものではなかった」ので「民営化」をそのまま、継承するということでした。しかし、市民が問うたのは「保育内容」ではありません(「児童福祉法のもと、福岡市が責任をもつ認可保育所」である以上、保育内容が違うはずがありません。)。「『公立保育所』を『民間保育園』にすることがどうだったのか」「直営の公立保育所としての役割」が問われていたのです。しかし「検証」というパフォーマンスをしてみせただけで、問題の本質に触れる事もなく、民営化問題を課題に運動を展開していた市民団体から一度も意見を聞かず、自身とは反対だったはずの前市長がつくった計画を継承しています。
保育士の非正規化が、急ピッチですすんでいます。本人自身、経済的に安定した生活を送れない若い保育士が増えてきました。やりがいを感じて選んだ「保育」の仕事だけど、年収200万程度の給与では、「子どもが好きだから」というだけで「仕事」を続けられない現実があり、長く続けていくことに、大きな不安を持っています。
そんな中、「よい保育士になりたい!」という自己研鑽の思いにも関わらず、研修を積むこともむずかしく、「保育労働の質を高める」ことが困難であるのは、保育士個人に問題があるわけでは決してありません。
今日の不況下で、不安定な雇用条件で働きながら、保育所に子どもを預けている保護者がとても多くなってきました。父母ともに非正規で働く人がほとんど、母子家庭、父子家庭の子どもたちがクラスの半数になる、とういう保育所もあります。一方では保護者がリストラされたという事例はしばしばです。厳しい生活実態の中で、虐待の問題も大きな課題になってきました。保護者の生活実態をしっかりとらえながら、子どもたちと一緒に、そこを支えることがこれからの保育所に求められることです。
「日本一子育てしやすい街」とは、子育てが苦しい人、弱者をどう支えきれることができるかということです。もう一度この言葉の意味をよく問い直す必要があります。
これまでの福岡市の保育施策の中で、「本来、子どもの保育環境はどうあるべきか」ということが論議された事はありません。圧倒的に民間保育所が多い中で、多くの保育園では、大きな集団での保育がすすめられています。1、2歳児クラスでも50人近いクラスを持つ園もあります。最低基準通りだとそこに保育士が7?8人、毎日同じ部屋で8時間以上を過ごすのです。ずっと、わいわいとにぎやかな環境の中で、そこであそび、給食を食べ、お昼寝をします。言葉が出始め、歩き始め、自分の思いをやっと表現できるようになる時期で、ひとりひとりをていねいに受けとめ、健やかに発達を促してあげる事が特に大切な時期ですが、たくさんいる保育士もパート職員だったりで、入れ替わりが激しく、大勢のなかまたちの中の一人である「子ども」は、誰に、よりすがればいいのでしょう?
保育所不足を、保育所をつくらず、定員をふくらませ、さらにはそれ以上の受け入れを民間に押しつけてきた結果は、「子どもたちにがまん」を強いる事です。それどころか、待機児童問題がこれだけ問題になっている今も、新設園は「自助努力」で設置できる人に限られています。
ただ、保育制度が変われば、保育所不足は、全く市の責任ではなくなります。保育所に入れず困る人がいてももう「待機児童」とはよびません。保育士や、子どもたち、保護者の問題も全く問題にする必要がなくなります。「地方の自由裁量」で施設づくりが可能だとしても、それは企業の経営活動の手助けになる可能性すらあります。
「地域主権」が声高にさけばれる中で、どのような自治体づくりが可能なのでしょう?いずれにせよ、良くも悪くも自治体の主体性が問われる時代にもなってきます。ずっと「国の動向をみて」と言ってきた福岡市ですが、これからは独自の判断が問われることも事実です。
真に子どもの育ちにしっかり着目した施策が求められます。「住民自治」を大切にした、「地域主権」が、今こそ大切です。私たちは今こそ、国に対して、こうした「住民が主人公の自治」をこそ、しっかり守る責任を求めたいものです。
福岡市は1960年代後半から80年代にかけて第2次ベビーブームの保育需要に対応するため、集中的に保育所の整備を行ってきました。しかしその後、就学前児童の減少もあり、1988年から保育所の新設は行っていません。地域的に増加する保育需要に対しては基本的に増築や既設内の定員増で対応してきました。
しかし1997年以降第2次ベビーブーム世代が出産・子育て期に入ったことや女性の社会進出の増加などにより保育所への入所申込が急増します。特に市街化の進行で人口が増えた地域においては待機児童が多く発生してきたため、福岡市は2002年に市児童福祉審議会に「今後の保育所行政のあり方について」諮問します。これに対して同審議会は「入所申込の急増から保育所整備は緊急な課題であり、整備計画を作成し迅速に行う必要がある」と答申しました。これを受けて福岡市は保育所整備計画を策定、2003年度以降2009年度までに保育所数を18か所、定員を1530人増加させました。現在、福岡市内の認可保育園の数は、172ヶ園(うち公立15ヶ園)、定員数は23,755名となっています。
この保育所待機児問題に対して福岡市は「待機児解消プラン」を作成して解決をしようとしていますが、増築や保育ママの活用など、一時しのぎの対応になっています。しかし現在の子育ての現状からすると、真に求められているのは、高い専門性をもった保育士が確保できる認可保育所の受け入れがなければ、発達や成長は保障できません。残念なことに今の民間保育所では、保育士が安心して働き続けられる労働環境ではなく、2,3年で職場を離れざるを得ない実情にあります。公立も民間も格差のない働く条件の整備が早急に求められています。入所希望者が多い地域には民間からの申出を待つだけではなく、市が責任を持って保育所を新設すべきです。
一方公立保育所に働く保育士は、保育所の子どもたちだけでなく、地域の子どもたち全員を視野に置いた職務を担えるよう、意識改革が必要です。労働組合には「市民の幸せが自治体労働者の幸せ」だという民主的自治体労働者を保育の現場でも育てることが求められています。
今の福岡市の保育をめぐる環境は、決して「子育てしやすいまち」だとはいえないのではないでしょうか。
「子どもは地域の宝だ」とよく言われます。その子どもを中心に据えた政策をつくらなければ福岡市の豊かな未来を実現することは難しいのではないでしょうか。
子育て政策には、子どもを中心とした、子どもの権利を保障する状況をつくることが必要です。
そのためにも、子どもを支える大人が子育てに喜びを感じられる環境が大事です。保護者の子育ての孤立化からくる子育て不安、保育者の労働条件が悪くワーキング・プアのような労働環境であったりするような状況を改善することが必要です。子どもを取り巻く大人たちが安心して暮らせる環境なくして子どもの幸せはありません。
このような環境をつくるためにも、自治体の責任と地域でのコミュニケーションがとれるようなネットワークづくりが必要になります。
福岡市は子ども施策を大きな柱と位置付け、区役所に子育て支援課をつくりました。しかし、職員体制的に見ても厳しい状況です。子育て支援課への保育士の配置は各区1~2名程度であり、地域の子育て相談により深く応じるためにはせめて中学校区に1名程度の配置が必要だと考えます。
今、「保育園を増やして」という声が大きくなってきています。今の経済状況では民間任せでは保育園は増えません。
待機児童解消については、民間任せの増築や保育ママ制度などの小手先の手立てで解消しようとするのではなく、思い切って公立保育所の増設を行うべきです。
「公」が子育てに対して本気になる時ではないでしょうか。
子どもが地域で育ち、親が安心して子育てできる環境を行政・自治体が責任をもって整えていく必要があります。この保障があってはじめて「日本一子育てしやすいまち」となるのではないでしょうか。