2017春闘シリーズ

記事 2017年2月28日

〈ソウル市の労働政策〉下/生活賃金の適用拡大へ/ユニークな感情労働対策も

 韓国のソウル市は「労働尊重特別市」をスローガンに掲げている。非正規労働者の正規化を含めて「7大約束」を提起し、具体化に努めてきた。その一つが生活賃金の拡大適用だ。
 韓国の法定最低賃金は全国一律だが、水準は低い。現在時給で6470ウォン(674円)。これではまともな生活はできないと、2015年2月に生活賃金条例を制定した。水準は市の生活賃金委員会が決めており、実際には生活水準などを調査しながら、法定最賃に上乗せする形で改定しているという。2017年の水準は8197ウォン(約820円)である。
 対象となるのは、市と関連施設で働く労働者。自治体の直接雇用労働者だけでなく、業務委託先にも適用しているのが特徴。最近では、病院や新聞社など一般の民間企業とも「生活賃金導入業務協約」を結び、民間波及も目指している。
 市長のブレーンの一人、金鍾珍さんによると、現在244自治体のうち60自治体で導入されている。民間企業への波及については「大企業はなかなか賛同してくれないが、これまでに6企業と協約を締結できている」という。もともと時給の高い新聞社などにすれば、協約を締結してもコスト増にはならない。民間に広げるためのアピール効果が狙いだと説明した。

●暴言電話を切る権利

 ユニークな政策の一つが「感情労働」対策だ。
 顧客の無理難題などに対しても笑顔で接し、素直な感情を抑えて対応しなければならない労働をいう。航空機の客室乗務員やデパートの販売員、コールセンターの労働者らが例として挙げられている。
 金さんは「こうした状態で働いている労働者を保護しようというのが目的で、まずは公共部門を対象に15年、条例を制定した」。以前のコールセンターの職場には「電話を受けたらまず『愛しているわ、お客様』と言うこと」「何を言われても我慢すべき」などと指示されていたという。
 コールセンターでは、暴言やセクハラの内容に対して、一度注意した上で「電話を切る権利」を認めた。金さんによると、今後は感情労働手当や休暇を導入する予定である。「危ない仕事に危険手当を付けるように感情労働手当があってもおかしくない」と語った。
 民間では、ロッテや資生堂コリアで導入例があるという。資生堂コリアでは、「販売員の苦しみ」に対して月7万ウォン(7千円)の手当が支給される。

●青年の雇用を重視

 非正規割合が高く、失業率が全国平均(3・6%)の3倍(10・3%)という青年労働者への対策にも力を入れている。使用者から不当な扱いを受ける学生アルバイトの問題にも対処しているのが特徴だ。
 就職できない青年には、月50万ウォン(5万円)を半年支給する青年手当を創設。現在は国の横やりが入って、1カ月のみの支給となっているが、金さんは「欧州連合(EU)で導入されている青年保障制度と同じ趣旨だが、削減は残念。国と自治体が互いに意思疎通して効果的な制度設計のために協力すべきだろう」という。
 このほか、アルバイトの権利を守る保護官の配置や実態調査、コンビニ協会など業界団体に対する雇用主教育なども行っている。(連合通信 2017)

 

 

 

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