2017春闘シリーズ

記事 2017年2月25日

〈ソウル市の労働政策〉上/8800人を正規に転換/市民派市長のブレーンが紹介

 2012年以降、約8800人の非正規労働者を正規に転換した自治体がある。韓国ソウル市。市民運動出身の朴元淳(パク・ウォンスン)市長が進めている人権尊重の労働政策の成果だ。同市長のブレーンの一人、金鍾珍(キム・ジョンジン)さん(韓国労働社会研究所研究委員)がこのほど来日し、ソウル市の労働政策について語った。

●非正規問題を重点に

 韓国では1997年の通貨危機を機に、公務を含め労働者の非正規化が急速に進んだという。現在も非正規率は43・6%で、半数近くが非正規となっている。
 こうした状況は大きな社会問題となってきた。朴市長は労働と教育、社会保障を重視する公約を掲げ、11年の市長選で勝利。すぐに着手したのが非正規労働者の正規化だった。
 金さんは「市長は特に非正規問題にポイントを置いていた。他のモデルになって実例を示すことを目指し、条例(勤労者権益保護条例)を制定し、副市長直属の仕事労働局という部局も設置した」。こうした動きは、韓国南西部の主要都市、光州市など他の自治体にも広がっているという。

●清掃労働者から着手

 正規化は12年以降、段階的に実施してきた。対象となったのは、(1)直接雇用の有期契約労働者(2)派遣や請負企業で働く非正規労働者(3)民間委託で働く非正規労働者――だ。
 韓国では公務員は全て正規職員である。非正規は直接雇用か派遣などの間接雇用かを問わず、公務員ではない。民間の労働法が適用されている。そのため、正規化に当たっては、「公務職」正規労働者に転換する形を取った。
 まず着手したのが、間接雇用の清掃労働者だった。職種では警備、施設、駐車、案内などもあるが、最も数が多く、劣悪な条件の清掃労働者を優先した。派遣などの契約が切れるのを待って市の直接雇用(有期契約)に移行させ、2年後に正規転換したという。

●コストは逆に削減

 だが、非正規の正規化がそう簡単に進むのだろうか。コスト面で負担増になるのではないかという疑問が出てくる。2月16日に都内で開かれた官製ワーキングプア研究会主催の集会でも、参加者からコストに関する質問が出され、金さんはこう答えた。
 「最も数の多い間接雇用労働者の正規化では、逆に費用が節減できた。その額は96億ウォン(約9億6千万円)。20~25%の財政削減となり、賃金の上乗せに回すこともできた」
 コストが削減できた理由は、利益を含む民間業者の経費と、日本の消費税に当たる付加価値税(10%)が市の直接雇用に移行した時点で不要になるため、と説明された。

●所属意識が生まれた

 金さんは、正規に転換した労働者を訪問している。
 労働者たちは休憩室が用意され、シャワー施設や浄水器、常備薬などが配備されたことを歓迎。特に大きかったのが身分証の配布だった。以前は庁舎に入る時は住民と同様、出入証を使っていた。今は正規公務員と同じ扱いになり、所属意識が生まれたという。
 こんな声も紹介した。
 「今では夏季休暇もあり、ボーナスももらえ、定期健康診断も受けられます…現場職員の声を聞くために本庁職員の非常連絡網も受け取りました。私たちが尊重されていること、組織に属していることに初めて幸せを感じています」(連合通信 2017)

 

 

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